競争的研究費

美術科授業研究・保育内容研究

伝統美術・工芸における<美意識><人との親和性>を
                視点としたESDカリキュラム(23K02411

「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)」(令和3年1月)が,中央教育審議会によって取りまとめられました。この答申においては「人工知能(AI),ビッグデータ,Internet of Things(IoT),ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられた Society5.0 時代が到来しつつあり,社会の在り方そのものがこれまでとは『非連続』と言えるほど劇的に変わる状況が生じつつある」と指摘されています(出典:文部科学省WEBサイト)。
 デジタル技術の急速な普及による社会変革により,実生活における五感や感性を駆使した活動(フィジカル)の意味が変化していく時代でもあると考えられます。このような時代/社会の動向を踏まえ,「人間らしさ」を育むことを重視した学校教育を実現に関する研究を展開することが求められているのではないかという着想に至りました。本研究課題は,伝統美術・工芸の本質にふれながら学ぶことによって,「人間らしさ」を育むことを重視した学校教育の実現に,図画工作・美術科の領域からのアプローチすることを指向します。

主体的な美術科学習における言語的・身体的活動を
            通した思考の促進に関する実証的研究(17K04781

平成 28 年8月,中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会から「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」が示されました。この報告では本研究が意図する「主体的な美術科学習の実現」に関連して,「『主体的・対話的で深い学び』,すなわち『アクティブ・ラーニング』の視点からの学びをいかに実現するかである」と述べられています(出典:文部科学省WEBサイト)。これは美術科学習に対しても,単に作品が完成することのみを目指した表現活動や,知識を覚えることのみが目的となった鑑賞活動に陥ることを危惧し,「どのようにして美術を学ぶか」という学びの質を問う指摘だといえます。
 本研究では,表層的な対話活動の導入によるアクティブ・ラーニングの形式的なスタイルを目指すのではなく,図画工作科・美術科・芸術科(美術・工芸)学習において育むべき資質・能力に応じた学びの方法を開発するため,言語的・身体的活動の有効性に着目したいと考えています。


教科目標への到達と感性の育みを促す言語活動等を
             視点とした美術科教育の基盤的研究(26381203

これまでに図画工作科を対象とした授業研究を推進し,鑑賞活動における発話や記述を対象とした研究や,造形活動を通して学んだことに関する言語表現の分析を試みてきました。これらの研究成果からは,児童が教科学習で感じた内容を言語化することによって,自ら学びを再確認する傾向があることが示唆されたと考えています。このような「言語活動等による表現を通した学びの再確認」は,各教科における授業改善に効果があるのではないか,という着想に至りました。
 本研究では,学習における「言語活動」をはじめとした,様々な「質の高い意志伝達」の効果と機能を図画工作・美術科学習の中に位置付けることによって,教科目標への到達や児童生徒の人間形成,とりわけ感性の育みを促進することを解明することを目的としています。


美術科教育と生涯美術社会との接続に関する社会実験研究(23730847

本研究は,美術科教育における「子どもの学び」から情報発信し,美術があらゆる世代の市民に広く浸透する(社会化する)プロセスを明らかにすることを目的としています。成人から子どもに対する教育活動に終始するのではなく,「子どもが感じた芸術に対する感受」を積極的に成人をはじめとする市民に対して情報発信することを意図するものです。
  この目的に到達するため, (1) 芸術と市民をめぐる諸問題についての予備的な考察, (2) 予備社会実験の枠組みと予備社会実験の結果分析, (3) 本社会実験において実践した図画工作科授業・ワークショップを通した芸術発信 についての分析,という3段階を経て研究を推進します。


明治期毛筆画教育研究

京都画壇関係者による毛筆画教科書とは

江戸末期から明治期にかけて京都に在住した絵師(日本画家)たちにとって,明治維新以降の生活様式の変化や文化の西欧化が進行したこと,そして東京奠都という社会構造の変革から受けた影響は甚大なものであったと考えられます。このような状況下で,東京に移らず京都に残った画壇関係者らによって,日本画の振興を目指した京都府画学校設立の建議が行われるなど,地域社会との接点を意識した取組が試みられました。そして,多くの京都画壇関係者らが,普通教育(小学校,中学校,女学校,等)における指導に使用するための毛筆画教科書の作成にも関与しています。京都という地域的な特性のもとづいた毛筆画教科書の作成状況については,これまで詳細な研究が見られませんでした。

このような背景をもとにして本研究課題では,京都画壇関係者が毛筆画教育に関連して行った活動を「明治期における芸術発信」としてとらえ,毛筆画教科書および一般向け絵手本類の作成,学校への出講や語られた言説等に関する史料群を再構成し,アーティスト(日本画家)による自律的な表象文化の動向として意義構築を行うことを目的としています。

現在,本研究室では明治期における女学校等においてどのような毛筆画教育が展開されたのか,そこに京都画壇関係者がどのように関与したのかについての解明を進めています。今後は,毛筆画教科書に掲載された図像についての調査を行い,日本画家らの画業と教育活動との間にどのような相関が見られるのかについて明らかにしたいと考えています。


    ※ 本研究課題に対して,これまでに下記の財団より研究助成を受けました。
      公益財団法人 稲盛財団,公益財団法人 中央教育研究所,公益財団法人 DNP文化振興財団